鶴岡工業高等専門学校「風による移動体式発電装置」
ECO SEED(代表・名古屋悟)では土壌・地下水汚染調査・対策や地中熱など再生可能エネルギー熱を中心に取材し、情報提供を行っていますが、「第14回おおた研究・開発フェア」(2024年10月10日、11日:羽田イノベーションシティ)を訪ねた時、「風による移動体式発電装置」という鶴岡工業高等専門学校(山形県鶴岡市井岡沢田104、太田道也校長)の展示が目に留まりました。風車を使わずに風を利用する発電で発電効率も良く、タワーによる風車式発電に比べ、設置コストやメンテナンス性も良いといいます。「風による移動体式発電装置」の研究開発を主導し、フェアに参加していた同校の遠藤大希助教に話を聞きました。メインで紹介する分野ではないながら興味深いと思った情報を伝える「Wide View」として紹介したいと思います。(エコビジネスライター・名古屋悟)
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風を利用した張力発電
「当校が所在する山形県庄内地方を含む日本海沿岸は巨大な風車が回る風力発電が盛んですが、大型のタワーを建てる風車式風力発電は多くのエネルギーを得られる一方、設置費用も高額な上、メンテナンスも容易ではありません。そこでタワーや風車を必要としない空中風力エネルギーの研究開発を始めました」――。こう語るのは、同校創造工学科機械コースデザイン工学分野の遠藤大希助教です。
※風による移動体式発電装置(写真提供:鶴岡工業高等専門学校)
遠藤助教が研究開発しているものが、「風による移動体式発電装置」で近年、各国で研究が進む空中風力発電の1つになります。
空中風力発電は、一般的な風車とタワーによる風力発電では利用が難しい高高度の強い風を利用することができることから近年注目され、係留式の飛行船(風車を内蔵したもの等)などを利用した風力発電機等の研究も進められていますが、同校で研究開発が行われているのは、凧(カイト)を使って上空の風力を利用するもの。上空で風を受ける凧、地上等に設置した発電機、発電機と凧をつなぐロープで構成されるものです。つまり風による凧の牽引などによりロープの牽引張力を発生させ、張力を回転運動にすることで発電する「張力発電」となります。
一般的な風車による発電では60%程の発電効率となりますが、空中風力発電ではそれ以上の発電効率が望めると言います。
この方式では各国の研究者やベンチャー企業等が「高効率な上空の凧の軌道」や「飛行制御装置」に注目する一方、発電装置は国内での研究報告例が少なく、実用を想定した発電装置そのものに関してその例が極端に少ないのが実情だと言います。「これまで、空中風力発電地上発電装置の研究開発を実施した経験を踏まえ、張力式発電の発電装置を設計開発に注力することとしました」と遠藤氏は研究開発の経緯を説明し、「従来の地上機研究は電動ウィンチの逆回転による発電方法を主に採用してきましたが、これにはエネルギーロスや電気的損失といった限界がありました。そこで私たちは新たなアプローチを導入しました」と語ります。
凧を使用して電動車両を帆走させ回生エネルギーを回収
地上機の研究開発では、瞬間効率80%を超えることもありましたが、80%達成時には巻き取り―発電機・放出リールがいわゆるフルロック状態になるなどしたほか、広報イベント用自転車改造人力発電装置として使用した際には高出力すぎて破損するなどの課題があったとし、「凧を使用して電動車両を帆走させ回生エネルギーを回収すれば効率が良いのではないか?と移動体式発電装置と命名し、開発を始めました」と遠藤助教は言います。
迅速な実用化を図るため市販品の流用が理想的とし、電動車両の回生発電なら発電機はタイヤ直付けであることなどから電気三輪自転車を改造。今回の革新的な研究では、JAXAをはじめとする国内研究機関が進めるEVやEバイクなどの移動体をカイトの牽引張力を利用して走行させる「帆走状態」を実現するとしています。
遠藤助教によると、「この方法は船のスクリューを帆走で逆回転させるものはあるものの2024年1月現在、車両の回生による張力発電は当方が確認する限り世界で初めての試みであり、張力エネルギーを最大限に活用し、高効率な回生発電回路を駆使して発電を行えるが分かりました」としています。
この装置を開発に先立ち行った旧モデルの実験では、放出リールに巻かれたロープが発電機にチェーン・リンク機構で接続された滑車を経由し、巻取リールに至るという実験装置を製作。
この巻取リールには動力となるモータだけでなく、回転速度と巻取時のトルクを計測するため、ユニパルス社製UTM3NMトルクメータをモータとリールの間に接続し、巻取動力を計測。この「入力動力の値」と「発電された電力の値」「発電効率を差し引いた伝達された回転動力」この3つの値を比較検討。
その結果、簡易的装置であるにも関わらず平均の動力伝達効率がいずれも31%を超え、瞬間最大の変換効率は90.4%にも達したと言います。一方で、「移動物体のエネルギー変換効率が100%の状態=剛体が右から左に動くということで、張力発電の場合はロープが限界まで引かれ余裕が一切なく、危険な状態となることが今回の実験で明らかになりました」とし、「旧モデルの限界を感じ、偶然の産物で生まれたものを新たに生かして新たなモデルの実験を開始し、成果が見えてきたものです」と述べています。
遠藤助教は、「この技術により、エネルギーロスを最小限に抑え、効率的かつ持続可能なエネルギー供給を実現したいと思っています」と述べ、将来的には市販のEVプラットフォームや中古EV等を活用した大規模な移動体による発電施設を目指すとともに、EU水準の発電コスト5円/kWhを目指したいとしており、今後の研究の行方が注目されます。
鶴岡工業高等専門学校とは
遠藤助教が所属している鶴岡工業高等専門学校は、1963年に創設され、60周年を迎えている歴史と伝統ある国立の高等教育機関。5年制一貫教育の中に融合複合技術者・グローバルエンジニア・イノベーション人材の育成を目指した創造工学科を設置し、工学の基礎を学習後に「情報コース」、「電気・電子コース」、「機械コース」、「化学・生物コース」の4つの基礎コースに所属することでエンジニアデザイン力・コミュニケーション力に長け、アントレプレナーシップ(起業家精神)を兼ね備えた技術者としての素養を育成することを目指しています。
遠藤助教は「機械コース」に所属し、「風による移動体式発電装置」の研究開発のほか、「海洋プラスチックの再生」も研究開発のテーマとしています。
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