■環境省水・大気環境局 堀上勝土壌環境課長兼地下水・地盤環境室長に聞く■
土壌・地下水環境ビジネス、地中熱利用ビジネスを展望する上で、所管する環境省の動向は1つの大きなポイントになります。ECO SEED(代表・名古屋悟)では、2020年1月6日に配信した新年号「Geo Value」Vol.91において、2020年における施策のポイント等を環境省水・大気管渠局の堀上勝土壌環境課長兼地下水・地盤環境室長にインタビューし、掲載しました。
今回、その堀上勝土壌環境課長兼地下水・地盤環境室長インタビューを転載し、紹介しますので、ぜひご一読いただければと思っております。
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(以下、インタビュー本文)
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◆2020年4月:土対法調査・措置ガイドラインの補筆版を公表予定◆
――2019年は4月に改正土壌汚染対策法が全面施行され、土壌環境施策が大きく変わった年になりました。その施行に関して状況はいかがでしょうか。
「改正法全面施行にあたり、関係ガイドラインの改訂版を3月に公表し、改正法を反映した逐条解説書を8月9日に発行したところですが、今回の改正では施行規則の見直し等による重要なポイントが多岐に渡り、都道府県・政令市の担当者や指定調査機関にとっても理解して実行するのはとても大変なことと聞き及んでいます。
こうした状況を踏まえ、環境省では2019年度業務において地方自治体を対象としたヒアリングなどを実施し、改正法施行後の法令及びガイドラインの運用における課題や課題に対する対応方法を整理しました。現在のところ、特に土地の形質の変更に関係する土対法第3条7項や法第4条についての問い合わせが多く寄せられています。この結果を踏まえ、『土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第3版)』について、補筆部分の作成を行っており、2020年4月をめどに公表する予定です」
――改めて改正法で強調されたいポイントは。
「改正法は健康被害の防止という土対法の基本に照らし、リスクに応じた対応ができるように措置の適正化を図っており、繰り返し強調させていただいていますが、規制を強化した部分と合理化した部分があります。
第一段階施行として2018年4月1日の第一段階施行では、土地の形質変更の届出・調査手続きの迅速化、施設設置者による土壌汚染状況調査への協力に関する規定等を施行しました。その後、2019年4月1日に第2段階施行を行ったところですが、規制を強化した部分の一つとして調査の機会を増やした点がポイントです。一時的調査免除中や操業中の有害物質使用特定施設に係る敷地について、一定規模以上の土地の形質変更を行う場合、届出が義務付けられ、都道府県知事・政令市長から調査を命じられることになりました。
また、汚染の除去等の措置内容に関する計画提出命令の創設も重要なポイントです。都道府県知事・政令市長は、要措置区域内における措置内容に関する計画の提出を指示することとなり、その措置が環境省令で定める基準に適合しない場合、変更等を命ずることができることになりました。丁寧に計画を確認し、適切な措置が行われることを都道府県等が確実に確認していくことで、より適切なリスクの管理が進むものと思っています。
一方、リスクに応じた規制の合理化として、健康被害のおそれがない土地における措置の合理化を進めました。具体的には、埋立材等に由来する汚染がある臨海部の工業専用地域等において形質の変更を行う場合、その施行方法などの方針についてあらかじめ都道府県知事・政令市長の確認を受けた場合、工事ごとの事前届出をせずに、年一回の事後届出で良いことになりました。また、基準不適合が自然等に由来する形質変更時要届出区域(自然由来等形質変更時要届出区域)の土壌は、都道府県知事・政令市長へ届け出ることで、①同一の地層が広がるほかの自然由来等形質変更時要届出区域、②同一の土壌汚染状況調査により指定された自然由来等形質変更時要届出区域との間で移動させることができるようにもなりました。これにより、低リスクの土地や土壌の管理方法を整理できたものと思っています。このあたりは、先ほども触れた都道府県等へのアンケートでも課題として指摘する意見もいただいており、今後、必要な点を検討し、対応策などを示していきたいと思います」
◆都道府県等新任担当者向け「土壌環境研修」など啓発活動も実施◆
――改正法初年度で啓発が重要な年になったと思いますが、具体的にはどのような啓発活動を行ってきたのですか。
「一般向け、指定調査機関、地方自治体等幅広い主体に対し、広報啓発活動を行ってきました。
土地所有者を含む一般向けには、(一社)日本環境協会と共催で4月から6月にかけて東京、大阪、広島で『土壌汚染対策セミナー』を計4回開催しました。指定調査機関向けには7月から9月にかけて東京、大阪で『技術セミナー』を計3回、地方自治体向けにも10月に仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡で『ガイドライン説明会』を開催したところです。
また、都道府県、政令市の新任担当者を対象に、9月24日から4日間、『土壌環境研修』を行わせていただきました。この研修は従来、水環境等を含めた『環境調査研修』として行っていたものを今年度から組み替えて土壌に特化した内容にしたもので、100名以上が参加し、座学だけでなく、改正法の変更点を実際に当てはめてみるケーススタディ等も実施し、新任担当者の理解促進を図りました」
◆「カドミウム」、「トリクロロエチレン」の新基準2021年前半にも適用へ◆
――改正土対法施行関係以外の課題等の検討状況はいかがですか。
「水質環境基準や地下水環境基準の見直し等を受け、『1,1-ジクロロエチレン』など6物質について土壌環境基準及び土対法に基づく特定有害物質の見直しを進めてきました。これまでに『1,1-ジクロロエチレン』、『クロロエチレン』、『1,2-ジクロロエチレン』の3物質について土壌環境基準及び土対法に基づく土壌溶出量基準等の見直しを、『1,4-ジオキサン』について土壌環境基準の設定をそれぞれ終えています。
昨年は残る『カドミウム』と『トリクロロエチレン』について中央環境審議会において審議していただき、9月12日の土壌環境基準小委員会で土壌環境基準見直し案が、11月28日の土壌制度専門委員会で土対法に基づく土壌溶出量基準等の見直し案がそれぞれ了承され(表参照)、1月17日に開催する中央環境審議会土壌農薬部会で答申案が取りまとめられる見通しとなっています。公布後1年後に施行されることから2021年前半に新基準等が適用となる見通しです」
◆自然由来等による基準不適合土壌の判定方法の開発など実施へ◆
――土壌環境行政として2020年度はどのようなことを進めていく方針でしょうか。
「改正土対法の着実な施行に向けた取り組みが引き続き大きなテーマになるほか、土壌汚染対策に関する課題の調査・検討や生活環境の保全に係るリスク管理の検討などもテーマに挙げています。
改正土対法の着実な施行に向けては、効果的な情報の整備・発信による普及啓発、技術的能力の向上などに加え、自然由来等土壌の活用事例を調査し、課題等を検討するほか、基準不適合が自然等に由来する土壌の判定方法の開発などを実施していきたいと考えています。また、技術管理者に関しても2020年度は更新を迎える対象者が例年と比べ多くなる見通しとなっており、改正土対法の内容を含めて更新講習等にも注力していきたいと考えています。
課題の調査・検討に関する部分では、汚染土壌の適正処理のさらなる推進や透明性の確保に向け、電子管理票活用の検討なども進めていくほか、先ほど基準の話題に触れた『1,4-ジオキサン』について、調査方法の検討等を進める考えです。『1,4-ジオキサン』については、土壌環境基準は設定されましたが、土対法に基づく特定有害物質への追加は見送られています。特異な性質を有するため、土対法に基づく土壌汚染状況調査等における調査方法の設定が難しいことが理由ですが、その『1,4-ジオキサン』について調査方法の検討等も引き続き実施していきたいと考えています。
生活環境の保全に係るリスク管理の検討に関しては、生態系への影響等の評価手法の検討を進めていく考えです」
◆水循環基本計画の見直しを受け、地下水保全ガイドラインの改定も◆
――11月に水制度改革議員連盟が水循環基本法に基づく水循環基本計画の見直しに向けた提言をまとめましたが、地下水についても地下水利用者の責務の明確化など重要な点が指摘されており、地下水を巡る動向も大きな焦点になりそうです。環境省における地下水を巡る今後の取り組みはいかがでしょうか。
「地下水は身近な資源として多様な用途に利用され、広く地域の社会・文化・経済と関わっています。一方、地下水の存在する地下構造は極めて地域性が高く多様に富んでいることから収支や挙動、表流水との関係など未解明な部分が多い上、帯水層の広がりに応じ複数自治体にまたがる場合があります。
このことから地下水の保全・利用を図る地方自治体を支援する立場から環境省では『地下水保全ガイドライン』を作成し、管理手法・制度体制・涵養・水文化の継承の重要性を示し、周知を図っています。
第5次環境基本計画の中では地域循環共生圏が提唱され、さらに今後、水循環基本計画の見直しがなされることからガイドラインを改定し、パートナーシップの構築や好事例を取りまとめ充実を図っていきたいと思っています。
環境省としても水循環政策本部の一員として、関係する省庁と連携し、地方自治体等の地盤環境を保全しつつ、持続可能な地下水利用を支援していきたいと考えています」
◆地中熱関係では「帯水層蓄熱冷暖房」巡る動きに注目◆
――土壌環境、地下水環境分野では有害物質の規制などのほか、エネルギー資源としての地中熱利用や地下水熱利用も温室効果ガス排出量のさらなる削減など観点から重要な取り組みになってきています。土壌・地下水環境行政としてその推進などに向けた考えなどを聞かせてください。
「まず、帯水層蓄熱冷暖房を巡る取り組みが注目点だと思っています。2019年8月末に帯水層蓄熱冷暖房に係るビル用水法の国家戦略特区における新たな特例措置(共同命令)を公布・施行、9月には国家戦略特別区域諮問会議において、大阪市うめきた2期地区における帯水層蓄熱型冷暖房事業の区域計画を認定したところです。
こうした状況下、帯水層蓄熱に関して国内の事例や諸外国の事例、法制度など情報収集を行い、導入ガイドラインの策定に向けて検討を進めています。
地中熱利用全般については、これまで『クールシティ事業』や『ETV事業』を通した地中熱の評価・検証、『地中熱利用にあたってのガイドライン』の改訂、パンフレットや講演会などでの普及・啓発、導入支援事業等を行ってきたところです。
一方で、2018年度利用状況調査結果では、2013年度を境に近年設置件数が伸び悩んでいる状況となっています。こうした中、支援事業を巡っては、エネルギー対策特別会計による支援施策が見直し時期に入ってきており、支援策の継続について不安の声も聞かれます。
環境省としては引き続き導入促進のための支援事業、認知度向上のための情報発信、省エネ効果・導入コストについてのデータ分析を実施し、今後の普及に向けた検討を進める方針ですので、関係各方面にも引き続きご協力を頂ければと思っています」
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